A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

この一年を振り返って

桜を見る会や元農相の収賄疑惑、はたまた自身の「銀座高級ステーキ8人会食」問題で袋だたき状態の菅義偉首相は「大いに反省をしている」と陳謝する羽目になった。Go To事業の混乱も、支持率低下に拍車をかけている。

今年9月の政権発足時に60%前後の高い支持を得ていたのは、国民からの「ご祝儀」も含めてのことだ。発足わずか3カ月で40%前後にまで急落した支持率を回復させるためには、相当の困難を覚悟せねばなるまい。

ところで、菅首相が就任後、初の外遊先に選んだのは、米国ではなく、ベトナムだった。

就任2カ月でハノイを訪問(10月28日)し、グエン・スアン・フック首相と会談した。新型コロナウイルス感染症対策や、中国の覇権主義を念頭に置いた安全保障面の連携確認、商業やインフラ投資など12分野の協力文書をまとめた。

ベトナムの中部で今年、豪雨被害が発生したことから、菅首相は被災地への緊急援助物資を送ることも表明した。今年の東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務めるなど、域内で発言力を増すベトナムとの友好関係を維持することは、東アジアの安定や国益にかなう——。実務的と評される菅首相は、そう考えてハノイに飛んだのだろう。

翌11月の25日、ベトナム政府から早速、反応があった。

ハノイでベトナム外務省主催の日越交流セミナー「ミート・ジャパン2020カンファレンス」が開かれ、ブイ・タイン・ソン筆頭副大臣が約900人の出席者を前に「菅首相が最初の訪問国にベトナムを選んでくださったことに大変感謝している。日本政府、日本国民がいかにベトナムを重要視しているかの表れだ」と最大級の謝辞を送った。

そのうえで、ソン筆頭副大臣は「日本とベトナムは、両国関係を新たな高みに進めることで合意した。投資、貿易、農業、労働、科学技術、文化交流、ビジネスの短期滞在往来制度、定期商業便の早期再開、両国間交流の早期再開を目指して努力する。日本はベトナムにとって、最大級の経済パートナーで、関係は益々深まっている」と持ち上げた。

実はここに、景気浮揚のヒントがある。

コロナ禍で短期滞在往来制度の創設や定期航空便の早期再開は難しいにせよ、その他の分野では、飛行機が飛ばなくてもやれることは沢山ある。例えば、労働分野だ。

技能実習生として働くベトナムの若者が失踪したり、犯罪に手を染めたりするケースが増えている。多くは、コロナ禍を理由に実習先を解雇され、食い詰めてしまった結果であることが知られている。テレビ番組で先日「来日したことを後悔している」と告白する失踪者の映像が流れたが、この発言は、Facebook普及率6割強といわれるベトナムではあっという間に拡散する。その影響は、巡り巡って日本と日本人が自分の首を絞めることにつながりかねない。

ベトナムの高度人材はいま、日本ではなく、ドイツや韓国、台湾、米国などで働くことを夢見ている。ベトナム人の技能実習生にまでそっぽを向かれたら、死活的に人手が足りない介護、農漁業、建設などの産業は成り立たなくなるだろう。

世界銀行は、ベトナムの2020年の国内総生産(GDP)は2・8%の成長となり、さらに2021年は6・8%に達すると予想している。厄災を吹き飛ばす勢いのあるベトナムと持ちつ持たれつで現在と未来のデザインを描くことの恩恵は、計り知れない。

そのためにはまず、有名無実化している実習生制度を廃止し、外国人労働者をきちんと移民として迎え、働いてもらう必要がある。移民政策に否定的な前政権の中で、菅首相(当時、官房長官)は安倍前首相に「このままでは、国がもたなくなりますよ」と詰め寄り、妥協策としての特定技能制度の創設を実現させたと言われる。

ベトナムからのラブコールをどう受け取るか。これはもう、一政権の浮揚に限った話ではなく、私たちの暮らしに直結するテーマになっている。


のじま・やすひろ 新潟県生まれ。元毎日新聞記者。経済部、政治部、夕刊編集部、社会部などに所属。ベトナム好きが高じて1997年から1年間、ハノイ国家大学に留学。2020年8月、一般社団法人日越協会を設立。現在、同協会代表理事・事務局長。

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