A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

医食同源 Vol.1

北部の要衝ハイフォンは昔から、紅河デルタを代表する港町として栄えてきた。漢字で書くと「海防」。字解きの正否はともかく、よほどの軍事拠点だったようで、ベトナム戦争では空爆の標的にされた。良港は良港なのだが、紅河から流れ込む大量の土砂で港の水深がすぐ浅くなってしまうことが悩みのタネだった。

そこで、「港湾施設をもっと沖合に引っ張り出せ!」とばかりに再開発して2018年に開業したのが、北部では初の大水深国際港となる「ラックフェン港」である。日本も1100億円の円借款を充てたので、結果的に日本人の汗水が注がれたも同然の大工事だった。

ハイフォンの人たちが、まだ海中の土砂で四苦八苦していた21年前のこと。

知人に誘われ、ハノイからハイフォンまでタクシーを飛ばし、海っぺりにある海鮮料理屋に入った。注文を知人に任せたところ、大きな白身魚の姿焼きと、臭い葉っぱがザルに大盛りで出てきた。

知人が魚にはしを差し込むと、どう見ても生焼けの状態だったので、筆者は「もう一回焼いてもらいましょうか」と提案した。すると、知人は「大丈夫、大丈夫」といいながら魚の肉をつまみ、返す刀で臭い葉っぱを旨そうにモグモグとやり始めた。

葉っぱの正体は、新鮮なドクダミ(ザウ・ジエップ・カー)だった。

知人によれば、魚介類の毒消しには、ドクダミが最も有効だとかで、鼻が曲がりそうな臭いを全く気にしていない。ハノイの近郊の寒村で育った知人はベトナム戦争中、傷んだ川魚を炭で焼き、ドクダミと一緒に食べて育ったので、無理もない。

ザルいっぱいのドクダミは、少しクンクンしただけでも食アタリを起こしそうなほどの強烈な臭いを発散している。「さぁ、どうぞ、どうぞ!」と誘われるまま、息を止めて「エイヤー!」と口の中に放り込んでみた。

やってみると、意外とイケる。何度か口に運んでいるうち、鼻が麻痺したのか、やがて臭いも気にならなくなった。それからというもの、ベトナムで海鮮料理を食べに行くと、ドクダミも一緒を注文するようにしている。日本と同様、路傍で勝手気ままに生えている葉っぱなので、大概の店で注文できるうえ、毒消しの効果は間違いない。これまで、ベトナムで何度か生焼け、生煮えの魚介類を口に入れたが、それでお腹をこわしたことは一度もない。

利尿作用で有名なドクダミは、黄色ブドウ球菌さえ蹴散らすほどの殺菌効果があるそうで、夏場など食べ物が傷みやすい時期にはもってこいの葉っぱである。

ドクダミ食に限らず、「医食同源」「薬食同源」と呼ばれる食生活は、ベトナム人の身体に染みこんでいる。最近、日本のスーパーマーケットやネット販売で見かけるようになったベトナム産調味料「サー・テー・トム」もそのひとつで、瓶入りの輸入品が広く出回り始めた。元々はベトナム南部の家庭料理で、どこの家でも大がめに作って常備している。日本の自家製味噌のようなものだ。

原料は、レモングラス、エビ、唐辛子、ニンニク、大豆油で、肉料理や麺料理、チャーハンなどにかけてまぶすと、辛さと香ばしさが絶妙なコクと旨味になり、食が進む。レモングラスにも免疫力を高め、抗菌、下痢止めの効果があるそうだ。

日本での生活が長いベトナム人男性(43)はこのサー・テー・トムが大好きで、自分が作ったものをほぼ毎日、大量に食べている。ところが、夫人と3人の子どもはさほど好物というわけではなく、おととしの冬、4人そろってインフルエンザに苦しんだ。2DKのアパートで、5人並んで寝ているので、「おれもやられるかな」と観念していたにもかかわらず、一家の中で男性だけ罹患しなかった。「サー・テー・トムのレモングラスが効いたんだろう」と、以前にも増して自作し、ほぼ毎食、お腹に入れている。

レモングラス(サー)の茎。これを砕いたものが
「サー・テー・トム」の中に入っている
=撮影協力・コムベトクアン

これだけにとどまらず、疲労回復や殺菌効果というジャンルに限ってみても、ショウガ、シソ、ワケギ、春菊など、日本でもおなじみの葉っぱがベトナムでも食卓に上る。そうした薬食文化と並び、漢方や南方(ベトナム版漢方)の生薬を使った医療行為が、ベトナム国民の健康を支えている。

次回は、筆者が常用している漢方・南方薬についてご説明したい。

◆トップ写真: 筆者がネット通販で購入した「サー・テー・トム」


のじま・やすひろ 新潟県生まれ。元毎日新聞記者。経済部、政治部、夕刊編集部、社会部などに所属。ベトナム好きが高じて1997年から1年間、ハノイ国家大学に留学。2020年8月、一般社団法人日越協会を設立。現在、同協会代表理事・事務局長。

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