A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

2022年の日越関係

ベトナム・フェスティバル2021が12月11日・12日の両日、東京・上野公園で開かれた。天候にも恵まれ、都心で「プチ観光」を楽しみたい日本人と、日本で暮らす仲間らと会いたい在日ベトナム人が大挙押し寄せたようだ。2日間の来場者は10万人を優に超えたのではないかと思ったが、主催者発表によると、当初予想通りの3万人だった。入場者数は通常、主催者のメンツに関わるので多めに発表するのが常だが、フェス事務局の人たちはいたって謙虚だった。

筆者が所属する一般社団法人日越協会も、映像制作会社「コイファミリー」(本社・川崎市、https://koifamily.jp/)と共同でブースを設け、初めて出展者としてフェスに参加した。

コイファミリーは、社長のグエン・ヒウ・マイン・コイさん(32歳)を中心に、在日ベトナム人15人(うちボランティア8人)で活動している。2017年に開業後、これまでに、在日ベトナム人の活動ぶりをネットで紹介する「HONTO TV」のコンテンツ20本を制作。さらに、ベトナム国営放送VTVにもニュース12本を提供するなど、日本とベトナムを股にかけて活躍している。

フェス開幕日、彼らは若さとフットワークの良さを生かし、デジカメで動画撮影した後、ブースの中で映像を編集し、ニュースコンテンツを制作。あっという間にネットでベトナムのVTVに送ってしまった。経過はこうだ。

VTVから夜のニュース用に制作、送信を求められた彼らは、原稿を書き上げ、映像を撮影した後の午後1時47分から編集作業をスタート。午後4時23分に作業を終え、VTVに送信した。編集作業に要した時間は約2時間40分。彼らの手がけた2分間のニュースは午後9時からの番組で全国放送された。日本で暮らす肉親に思いを寄せるベトナムの視聴者は、さぞ多かったことだろう。

一方、コイさんたちの陣容は、といういうと、アナウンサー1人、カメラマン2人、編集者2人のたった5人。そんな少人数でニュースを作って納品し、全国放送させたわけだ。

日本のテレビ局なら、カメラ1台あたり撮影クルー3人が必要で、大きな業務用カメラと三脚、ブームポールという長い柄の付いた大型マイク、長いケーブルなども付いて回る。編集編成作業も大がかりだ。ところが、コイさんたちは、アナウンサー用のマイクセットや、映像のブレを防ぐ小さな脚(ジンバル)を付けたデジカメ2台と、編集用のMacBook2台だけという「軽装備」だった。

いまのベトナムは、日本よりも巧みに、世界経済の大きな潮流とシンクロしたスピード感で動いている。コロナ禍にあっても、会社経営者たちはこの流れに乗り遅れないよう、風と潮目を読み、舵を切っている。コイさんたちの少人数ゆえの機動力、展開力、突破力も、流れの速いビジネスシーンで鍛えられたものだろう。「ベトナムと日本のコミュニケーションとテクノロジーの架け橋になり、両国の多くの企業の力になるために、尽力したい」。コイさんはそう語る。

フェスティバルが暗い年の瀬を明るくしてくれたせいか、会場の上野公園では、来年の日本とベトナムの関係強化を期待する声をよく聞いた。大きなブースを出展したベトナム航空の幹部は「コロナでご迷惑をかけたが、今月から徐々に、入国後の隔離を伴わない定期便の復活となりそうだ。ワクチンパスポートと直近の陰性証明、訪問地の人民委員会の許可証は引き続き、必要となりそうなので、ご注意を」と話していた。筆者は2年近くハノイに帰っていないので、これはうれしいニュースだった。

日本とベトナムの間には、友好の大樹が育ちつつある一方、大きな懸案が横たわっている。ベトナム人技能実習生の人権問題だ。2022年は、これが改善に向かうのか、向かわないのか。先号の小欄でもご紹介したように、11月のファム・ミン・チン首相の訪日に合わせ、日越両政府は「技能実習生を取り巻く環境整備」を約束し合った。2023年の国交樹立50周年を前にして、来年は岸田政権の本気度が試される1年になるだろう。

技能実習生だけでなく、コイさんたちのような高度人材が多数来日する流れを再び作らないと、この国は坂道を転がる石のようになってしまうのではーー。12日夜、フェスティバル終了後にブースの撤収作業をやりながら、そんな思いを強くした。

多くの来場者で夜までにぎわったベトナム・フェスティバル2021の会場
2021年12月11日、筆者撮影

◆トップ写真: ベトナム・フェスティバル2021のフィナーレから 
        2021年12月12日 筆者撮影

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2020年10月からお付き合いを頂いてきた のじまやすひろ による「ベトナム見聞録」は、今回(30回目)をもって終了します。ありがとうございました。Hẹn Gặp Lại!(またお会いしましょう!)


のじま・やすひろ 新潟県生まれ。元毎日新聞記者。経済部、政治部、夕刊編集部、社会部などに所属。ベトナム好きが高じて1997年から1年間、ハノイ国家大学に留学。2020年8月、一般社団法人日越協会を設立。現在、同協会代表理事・事務局長。https://www.nhatviet.jp/

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