A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

ベトナムの不動産

ハノイに暮らす日本人の友人の結婚式に呼ばれた2002年5月のことだ。友人は、市内の一等地に職場を兼ねた家(3階建て)を借りていて、自宅でホームパーティー形式の披露宴を開くことになった。大恋愛の末、美しいベトナム人妻をめとった果報者である。「ハノイで根を張ることに決めた」というので、けっこう奮発して祝儀袋を東京から持って行った。

友人宅のベランダでビールをグビグビやりつつ、幸せそうな新郎をあてこすっていると、車2車線分の道路を挟んだお向かいさんの1階が目に入った。筆者の視線に気付いた新郎が「もうすぐあの家を売り払って、引っ越すんだ」と言う。聞けば、お向かいさんは老夫婦で、長年暮らした自宅を売り、郊外に建った高層マンションに転居するという。新郎には「2人で静かに余生を過ごしたい」と語ったそうだ。

驚いたのは、その後だ。「お向かいさんの家、いくらで売れたと思う?」と新郎はうらやましそうな顔をしている。お向かいさん宅は、日本でいうところの2DKの一室ほどの広さの土地に、モルタル造りの4階建て、築ウン十年の古い物件だった。強烈な湿気を長年浴び続けた外壁は黒カビだらけだったが、それでも、ハノイのど真ん中に建っていることは間違いない。

「そうだね、1000万円はするかな?」と答えると、新郎は首を横に振った。「4800万円だってさ」。筆者はこの時たぶん、口をポカンと開けたまま突っ立っていたと思う。

時あたかも、ベトナムで土地バブルが始まったころのことだ。市内の古い民家が取り壊され、ハノイ中心部に近代的なビルが群立し始めた時期である。

ベトナムという国はあくまでも、共産党一党独裁の社会主義国であり、土地の私有は認めていない。でも、土地の使用権は認めていて、外国人も50年期限で土地付きの上物を購入でき、期限が来たら改めて50年を限度に、計100年使用できることになっている。

首都のど真ん中といっても、もちろん、東京やニューヨーク、ロンドンなどと比べたら割安感は大きく、近年は経済成長と人口増などを追い風に、外国人投資家から熱い視線を集めるまでになった。

一般財団法人日本不動産研究所がまとめた第16回国際不動産価格賃料指数(今年4月現在)によると、東京都港区元麻布地区のマンション分譲価格を100とした場合、ホーチミンの物件は10.4。千代田区大手町のオフィス価格を100とした場合も、ホーチミンの物件は13.0となり、購入価格はマンション、オフィスともに東京の1割程度でしかない。

また、ホーチミンでの価格変動率を見ると、同月までの半年間でマンション1.0%増、オフィス0.5%増と、なだらかな上昇が続いていることが分かった。コロナ禍であっても、実需は旺盛、不動産取引は活発だったとみていい。とはいえ、コロナのデルタ株が猛威をふるう前にピックアップされた数字なので、現在の実需については注視しなければなるまい。

加えて、ベトナムには外貨の持ち出し制限があり、不動産の運用益や転売益を全額、自国に持っていくことは難しい。また、外国人が中古物件を買う際は規制がきびしく、前のオーナーが外国人であることが前提で、かつ、使用権を「引き継ぐ」ことで土地の使用が認められる。仮に、前の外国人オーナーがすでに10年間使った不動産を購入した場合、40年しか使用権は認められない。

さらに、集合住宅では総戸数の30%が、一戸建てなら1街区あたり250戸が購入戸数上限となっている。金持ちの外国人投資家がベトナム国内の優良物件に群がり過ぎないようにしたいという、ベトナム政府の強い意志を感じる。

ポスト・コロナが大前提ではあるが、永住したり、不動産を長期保有したりする夢があるならば、ベトナムの街は掛け値なしにお勧めできる。筆者の経験上、厚い情けに包まれて暮らせることだけは間違いない。


のじま・やすひろ 新潟県生まれ。元毎日新聞記者。経済部、政治部、夕刊編集部、社会部などに所属。ベトナム好きが高じて1997年から1年間、ハノイ国家大学に留学。2020年8月、一般社団法人日越協会を設立。現在、同協会代表理事・事務局長。

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