A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

ベトナムのビジネス事情

「商売は、船底一枚の下は大しけだ。地獄なんだ。その覚悟がなかったらダメだ」

新聞記者を辞め、ベトナムに関わり続けながらメシを食おうと思い、とある会社社長に話をしたとき、こう説教された。いつもは柔和な笑顔のおじさんなので、このときもてっきりニコニコと励ましてくれるものだと思っていたら、般若のような形相で「船底一枚」の話を二度、三度繰り返し、覚悟を問われた。

東北生まれのおじさんは、何度も人にだまされ、大金を失い、塀の中で麦飯を食べたこともあったが、最後はひと花もふた花も咲かせ、ベトナム事業で大成功した。「何をするにしても、ベトナムでは、人が大事だ。パートナーを間違えてはならんよ」と、おじさんは説く。

ベトナムという国をステロタイプに例えると、①人件費が安いから、固定費削減の可能性が高い②人口が増えているから、日本より将来性が高い③国民が勤勉だから、事業が成功する可能性が高い④進取の気性に富んでいるから、先見の明がある——という括り方ができる。大方の日本人ビジネスマンの共通イメージという意味では、いずれも正しい。

ただ、件のおじさんの言う「パートナー選び」が死活的に重要となる。

かつて、ベトナムで不動産投資を成功させようと夢見た結果、数千万円の自己資金を投入した日本人(Aさん)がいた。ベトナムで外国人がビジネスを展開する場合、必ずパートナーが必要となるので、この日本人は、ベトナムに詳しいと評判だった日本人(Bさん)に資金を渡し、パートナー選定の仲介を頼んだ。ところが、待てど暮らせど不動産投資は実現せず、仲介を頼まれたBさんは言を左右にして責任を取ろうとしない。結果、Aさんの支払った数千万円は回収できず、泣く泣く ベトナム事業から撤退したという。

事件性の有無は分からない。ただ、Aさんは周囲に対し「Bさんを信用してはいけない」と忠告しているそうだ。

では、ベトナム人なら、ベトナムで、ベトナム人と上手にビジネスできるかといえば、これもまたネガティブな先例がある。

日本に留学後、帰国して日系企業の現地法人幹部になったCさん(40代)は、ベトナム国内で工場を建設する計画の中心者になった。ところが、事前の書類提出の段階で、行政の担当者と言い合いになった。「汚水処理について問題がある」と言われたCさんは、日本の本社と調整し、何度も書類を書き換えた。それでも行政の認可が下りないので、行政の担当者に理由を問いただすと、賄賂云々の話になった。要は「これでは足りない」というわけである。

最終的に、Cさんの会社は賄賂を増額し、工場を無事建設できた。ただ、1人で担当者とやり合ったCさんはいまでも「あの時は、ベトナム人を辞めたくなった」と語る。Cさんは間違いなく正真正銘のベトナム人とはいえ、行政や地元に地縁、血縁はなかった。

ベトナムでビジネスを展開する人たちにとって大きな問題のひとつが、こうした賄賂絡みのトラブルだ。

ベトナムの賄賂には2種類ある。課税文書に貼り付ける印紙や、インフラ整備など国民向けサービスを実施する目的税のシステムが日本ほど発達していないベトナムでは、サービスの受益者に「当座の諸経費」を求めることが少なくない。もらった「諸経費」は通常、行政や民間の担当者に分配され、その後、事業が円滑に動く。これを俗に「良い賄賂」と呼ぶ。

一方、担当者に配分せず、自分の懐に収めてしまう輩もいて、この場合は「悪い賄賂」と呼ばれる。時々大物が捕まったり、粛正されたりして話題になる。

どれが良い賄賂で、どれが悪い賄賂なのか、ベトナム人でも判断は難しい。だからなおさら、パートナー、合弁相手の選定が重要となる。ベトナムビジネスでは、経営力や資金力にもまして、誰と組むかが一番大事で、一番難しいことをお忘れなく。


のじま・やすひろ 新潟県生まれ。元毎日新聞記者。経済部、政治部、夕刊編集部、社会部などに所属。ベトナム好きが高じて1997年から1年間、ハノイ国家大学に留学。2020年8月、一般社団法人日越協会を設立。現在、同協会代表理事・事務局長。

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