A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

教育事情 vol.2

新聞記者をしていた2019年9月、社内の同僚から相談を受けた。茨城県内で起きた刑事事件の容疑者としてベトナム人の青年が逮捕されたが、同県警のガードが固く、全く取材にならないのだという。

「事件の解決に役立つのなら」と思い、取材の手伝いを引き受けた。警察ルート以外からの情報入手を試みたところ、以下のような案配で取材は進んだ。

①「容疑者の知人か友人に会って話を聞きたい」と、Aさん(女性、東日本在住)にメールで相談
②AさんがBさん(同)を紹介
③BさんがCさん(同)を紹介
④CさんがDさん(同)を紹介
⑤DさんがEさん(男性、同)を紹介しようと提案

全員が、国内在住のベトナム人である。最後のEさんは容疑者の友人で、逮捕前、2人は接触していたという。

喜んだのも束の間、Dさんからメールがあった。曰く、実はEさん、技能実習生として来日したものの、実習先から逃亡し、関東某県で身を隠しているという。マスコミに知られたら警察に見つかる、と思ったらしい。「野島さんには会えない」とDさん経由で連絡があった。取材の手伝いは、そこで終了となった。

容疑者の知人・友人探しをお願いした際、Aさんは「ほとんどのベトナム人は犯罪をしたくて来日しているわけではない!」と憤慨していた。筆者は、Aさんこそ旧知の間柄だったとはいえ、Bさん、Cさん、Dさんと面識はなかった。なのに、見ず知らずの日本人からの面倒なリクエストに応じてくれたのは、Aさんと同じ思いだったからだろう。Dさんは、Eさんに2回電話してくれたそうで、説得かなわず、「力になれなくてすみません」とメッセージを寄こしてくれた。心底「いい人たちだ」と思った。

日本にやってくるベトナムの若者たちは、大きく分けて3種類に分かれる。

<A>ベトナムの将来や自分の夢を叶えるため来日した留学生
<B>仕事を探すため来日した学生や卒業生
<C>一族を食べさせるため、手に職を付けるため来日した特定技能・技能実習生

そして、日本語の習熟度や来日後の生活レベル、最終的な就職先の安定度、という物差しで見ると、筆者の見る限り、A>B>Cという構図になっている。もちろん、必死に努力して、技能実習に励みながら日本語を学んで習得したベトナム人も筆者の周りにいる。でも、残念ながら、そうした頑張り屋さんはまだ大多数とはいえない。

Cの若者の場合、80〜150万円もの借金をして来日しているといわれる。その返済と、一族を扶養するため、彼らは働かざるを得ない。AとBの若者はまだいい。金銭的に恵まれている。Cの若者たちをどう支え、日本で生活してもらうかが問題なのだ。

A、B、Cいずれの若者たちも、日本語が読解不能の状態で来日するわけではない。半年程度、ベトナム国内で基礎的な文法、発音などを学び、日本語能力試験に挑戦しながら日本を目指す。日本では、さまざまな危険や誘惑、困難が待ち受けていることは百も承知で、多額の借金を抱えてやってくる。そして、生きていくため、道を踏み外す若者が少なからずいるわけで、刑務所など各種施設で、彼らに道徳面の再教育をすることも必要かもしれない。

何のために生きるのか、という人間としての根本的な問題が、日本とベトナムの間で大きく異なっているとは思えない。誰だって幸せになりたくて生きているはずで、日越両国に彼我の違いはない。犯罪を起こしたくて生まれてきた人間など、存在するはずがないのだ。 日本で犯罪に手を染めた若者たちの話は、ベトナム国内の「予備軍」の若者たちにはとっくに知れ渡っている。未来永劫、日本で働いてくれると思ったら大間違いで、現に高度人材は、日本市場をなかなか向いてくれないご時世だ。そもそも、どうして100万円超の借金を作らなければならないのか。外国人労働者への見方を変えてもらうため、日本のあらゆる企業、事業者の再教育も急務だと思うが、いかがだろう。


のじま・やすひろ 新潟県生まれ。元毎日新聞記者。経済部、政治部、夕刊編集部、社会部などに所属。ベトナム好きが高じて1997年から1年間、ハノイ国家大学に留学。2020年8月、一般社団法人日越協会を設立。現在、同協会代表理事・事務局長。https://www.nhatviet.jp/

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