A Recipe for a Happy Life

日本での幸せライフレシピ

ほうれんそう

「ほうれんそう=報告、連絡、相談」は、日本の仕事場ではビジネスマナーとして基本中の基本です。ではベトナムではどうなのでしょうか。ここでは実例をもとにしたストーリーを紹介してその原因を考え、トラブルがあった場合に日本人としてどう対応すべきか見ていきます。

<登場人物の紹介(仮名)>
ホアさん:日系コンサルティング会社のベトナム人女性事務員
中村さん:日系コンサルティング会社のマネージャー
※事実通り紹介すると会社が特定されてしまうため、事実をアレンジした内容となっています。

<会話>

中村:ホアさん、仕事をお願いしたいんですが。

ホア:はい。

中村:取引先の契約書、データベース化のためにパソコン入力が必要なんです。ホアさんが担当してもらえますか?

ホア:たくさんありますね。

中村:そうなんです。それで申し訳ないんですが、月末までの、できるだけ早い時期に入力を終わらせてほしいです。できますか?

ホア:はい、できます。

中村:ホアさんはタイピングが速いから安心しました!

(月末3日前)

中村:ホアさん、入力作業はどうですか? どこまで終わりましたか?

ホア:ここまでです。

中村:まだ半分ぐらいですね! どうしました?! 来月、データベースを社長に見せる予定なのに…!

ホア:え、そうだったんですか?

<原因:努力目標>

ベトナム人社員に仕事を任せたところ、締め切り直前となっても仕事が進んでいなかったという状況です。これはベトナムで日本人が経験することの1つです。

以前、日本人駐在員などにこうした事態が起こる原因を聞いたことがあります。ある人は「ベトナム人はプライドが高く『できない』と言わない」、別の人は「目上の人の命令は絶対なので『できない』と言えない」と説明していました。いずれもベトナムをよく知る人たちのお話なので、一理あると思います。しかし同様の出来事を何度か経験してみると、ベトナム人の「できます」という返事は、「がんばってみます」くらいの感覚というのが妥当ではないかとも思われるのです。

「できます」というのは努力目標だからこそ、できない可能性もあるのです。感覚や言葉の違いが、仕事で表れる例だといえます。

さらに中村さんの言葉をみると「早い時期に入力を終わらせてほしい」ものの、あくまで締め切りは「月末まで」。加えてホアさんは「社長に見せる」と聞くまでは、絶対に月末まで終えるべき理由も知りません。月末3日前で半分しかできていないとはいえ、ホアさんは最後の日まで入力をがんばろうとしているだけなのです。

<対応>

もちろんベトナムでも絶対に守るべき締め切りに間に合わないと判断し、上司や顧客に連絡する場合もあります。以前、画像編集の仕事をベトナム人に任せたところ、締め切り2日前に「できない」と報告してきました。量が多かっただけに2日前の報告には慌てましたが、前もって伝えてくれたことには違いありません。彼からするとギリギリまでやってみたという意味も含むのかもしれませんが、この2日前という点にベトナム人の時間の感覚が反映されているようです。

一方、日本人とすれば、作業の進捗や完成の目安などをこと細かに報告、連絡、相談してほしいところです。しかし画像編集の例にもあるように、日本人と感覚が異なる外国人がどの程度事態が深刻なら相談するのか、どれほど「こと細かに」報告すべきか、こうした日本のビジネスの機微を理解するのは、最初は難しいことだと思います。

「ほうれんそう」を社内で徹底するには、締め切りとそれを守るべき理由を明確に伝え、最初は日本人から歩み寄って、報告のタイミングや相談すべき状況などを知ってもらう地道な方法しかないと思います。

また日本語学校に通ったベトナム人なら、「ほうれんそう」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ただし言葉として習っただけで実践経験はないという人もいるので、やはり現場で浸透させるしかない部分です。


あさき・ともみ 秋田県生まれ。2000年からライター、韓国語翻訳・通訳、日本語教師と、言葉に関連した仕事に携わっている。2012年からハノイ市に居住。ベトナム航空機内誌「ヘリテイジ・ジャパン」への執筆や編集など活動を続けている。

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